ありがとうございます!


「おそばに、まいりました」







「…………」
「え、あれ?ノーリアクション?」
「…………」
「おっかしいな…『手打ちそばとこの一言でどんな奴でも堕ちる!』って先輩は言ってたのに……」

特盛そばon銀色トレー片手にヨハンがオレの部屋にやってきたのは、ちょうど午後の1時を回った頃だった。
ちなみに冒頭の台詞は奴の開口一番の発言である。
っていうか手打ちなのかよお前の!!



「……とりあえず、オレはそんな怪しげな出前を頼んだ覚えはないぞ」
「あっはは、相変わらずきっついな万丈目!別にタネも仕掛けもないごくふつうのおそばだぜ!!」

お前がフォローを入れれば入れるほど、俺にはそのどんぶりの中身がダスキンモップか何かに思えてくるのだが。
……しかし実際、奴のいう『おそば(仮』には怪しい点は見当たらなく、ほかほかと湯気をたてるごくふつうの『俺の昼飯』に見える。
そういえば、腹も減ってきたな……



そんな俺の気を知ってか知らずか、ヨハンは満面の笑みで
「このままにしておくと伸びるし、早く食べようぜ!」
とのたまった。



確かにそうだな、早速食べ……r…





……待て。





『食べようぜ』……?





「あぁ食べようぜ!オレとお前で!」

奴はそういうとジャイアンは背中からマイクを取り出すときのような鮮やかさで、割り箸を2膳取り出した。

どうやらこのフラグは回避できないようだ。





***



ず…ず…

ずる……

ずーーーー……



「………」

男二人がテーブルに向き合い、顔を突き出しながらそばをすするこの光景は、はたから見たらどんなにかシュールなことだろう。
取り皿も何もない、普通の大人サイズのどんぶりひとつから食べているので、必然的に物凄く顔が近い。
ヨハンのそばを冷ますハァハァという吐息が俺の顔にもかかる気がして気持ちが悪い。
……というかハァハァってなんだ!普通はフーフーだろうが!!!

くそ、この食事を少しでも快適にする術はないものか…!



「……そうだ」
「んふぇ?」
ぞばを咥えていたヨハンが間抜けな声をあげた。



オレはまず、そばを数本箸にとり、口もとへはこぶ。
次に、先を咥えたままそばを箸で適当な長さにぷつん、と切った。
ははは!こうすればお前に顔を近づけることなくそばを食すことができるぞ!!!



得意気な俺をヨハンはしばらくつまらなさそうに見つめてから、はぁ…と小さく溜息を吐いた。



「万丈目……すすれねーの?」
「なにがだ?」
「そば、すすれーの?」
「…さっきまで、ずっとすすってたじゃないか」
「ん〜そうだっけ?オレはハァハァするのに夢中で気がつかなかった!」
「ハァハァってお前……」
そもそも外国人は麺類をすする音を嫌うんもんなんじゃないのか…?

「あのな、俺はお前と顔を近づけるのが…」
「そういえば!この間見た健康番組で『麺類をすすって食べることができないのは、頬の筋肉が衰えている証拠です』とかなんとか言ってたな!」
「いやオレの話を聞k……」
「万丈目…老化なんだ?その歳で?」
「………」
「流行りの高齢化ってやつ?へぇ……」







もしかして…
俺は今、こいつに馬鹿にされている?



ム カ つ く…!





「……いいだろう!貴様がそこまで言うのなら見せてやる!!このどんぶりのそばを1本残らずすすりきってみせようじゃないか!!」
「おおお!さすが万丈目、男らしい!!」
「万丈目さんだ!男なんだから当たり前だ!!」







そんなわけで、オレとヨハンのそばすすり対決が始まった。
「それじゃ…よーい、スタート!」

基本的に運動は苦手な俺だが、頬の吸い上げる筋肉には自信がある。
実家での飲み物はいつもストロー+コースター付だったしな!

「………」
「………」

当然ながら、二人とも無言だ。
ただ、そばの吸い上げられる音だけが聞こえていた。
やっぱりシュール過ぎる光景だ。
それでも…



『ここな男のプライドにかけて…絶対に負けられないノーネ!』
「っ!!?ぐ、ふ」
何故か突然パスタをすするクロノス教諭の姿が頭に浮かんでしまい、思わずそばを噛み切りそうになったが慌てて押しとどまった。

「………」

……それにしても、このそばの長さは異常じゃないか?
どれだけすすっても全く見えてこない。
手打ちだと言っていたが、こいつは一体どんな切り方をしたんだろう。

『マンマミーヤ!!このパスタはなんなノーネ!!?』

ままままずい!!!またクロノス教諭の姿が…!!
脳内でロングスパゲティと格闘する先生の残像を振り払うべく、俺はぎゅっと硬く眼を閉じた。



次の瞬間。
突然、ピンとそばが引っ張られるような感覚がした。

「っう!!?」

驚いて目を開ければ、ゼロ距離に対戦相手の顔があった。
そして、ちゅ…という濡れた音と……唇に暖かな感触。



「………っあ"ああああぁぁぁぁ!!!!!!」





***







「う、うばわれちゃった…てへ」
恥じらいに頬を染めてそう呟く人物はヨハン・アンデルセンだ。
断じてオレではない。



奪われてなどいない!むしろオレが被害者だ!
その前に気持ち悪いぞお前!
と突っ込む余力など今の俺には無かった。
どうやら先ほどのキs…事故で生力をすべて吸い尽くされたようだ。
まさか、同じ1本のそばをすすっていたとは……!!



「どうしよう…オレ、もうお婿に行けないっ!というわけで万丈目もらってくれ」
「後のセリフは聞かなかったことにするとして、これで貴様の毒牙にかかる女性がひとり減ったと思えば安いもんだな」
「ひ、ひどすぎるぜ万丈目…!もとはといえばお前がキス待ち顔なんてするからあんなことに……」
「なッ…!!してない!断じてしてない!!」
「オレにはそう見えたの!……っていうか…」





ヨハンはつまらなさそうに瞳を細めてから、はぁ…と小さく溜息を吐いた。
あれ、なんかデジャヴ……





「案外無責任なんだな万丈目……男のくせに」
「っ…!!?」

オレの中でまた1本、要らないフラグの立つ音がした。




Fin.



たたた、誕生日プレゼントに『BBW.』の実芹さんから頂いちゃいましたv
まさか頂けるとは思っても見なかったので、
メールボックスを開いたときに驚き同時に涙が(ヲイ)
一応、ヨハ→万だそうです。
私、実はヨハ→万好きなんですよ(聞いてないから)
実芹さんは『キモイヨハンですみません』とおっしゃっておりましたが、
こんなヨハンも私は大好きなのでむしろ大歓迎です☆

では、改めてこんなにも素敵なプレゼントありがとうございましたvv

長月ユリナ